【研究で判明】「食事の改善」が心の健康にもたらす影響とは?栄養精神医学の視点から

「食」という漢字は、「人に良い」と書きます。
私たちが毎日口にする食べものが、明日の身体と心をつくっていく——。小さい頃から両親に教えられ続けてきたこの実感が、近年、医学や科学の分野でも次々とデータとして証明されるようになってきました。
先日ニュースでも取り上げられていた「食事指導でうつ病が改善した」という話題もそのひとつです。
今回は、世界的な臨床試験のデータをご紹介しながら、日々の食卓で意識したい「食材の選び方」についてお話しします。
3人に1人が改善。食事療法を検証した「SMILES試験」
精神医学の世界で「食事の影響」を科学的に検証した代表的な研究に、オーストラリアのディーキン大学を中心に行われた「SMILES(スマイルズ)試験」があります。
日常の食習慣が乱れているうつ病の患者さんを2つのグループに分け、12週間にわたってどのような違いが出るかを検証しました。
比較した2つのグループ
- 食事指導グループ:専門家から地中海食を中心とした食事指導を受け、毎日の食事内容を見直した
- 社会的サポートグループ:食事指導は行わず、専門スタッフと趣味や日常の会話、相談などを定期的に行う「社会的サポート(ソーシャルサポート)」を受けた
12週間後の結果
- 食事指導を受けたグループは、社会的サポートを受けたグループに比べて、うつ病の症状が大幅に改善しました。
- 食事指導グループの約32%(およそ3人に1人)が寛解(うつ病の症状がほぼ消失した状態)に到達。(社会的サポートグループは約8%)
- 食事内容の改善度合いが高かった人ほど、症状の改善も大きいという結果が出ました。
専門スタッフによる「話を聞いて寄り添う」という社会的サポートも大切な支援ですが、それ以上に「日々身体に入れる食べものを変えること」が、脳の働きや心の安定に直接大きな影響を与えることが数字で示されました。
なぜ食事が脳(メンタル)に届くのか?
食べたものが気分や活力につながる仕組みとして、主に次の3点が挙げられます。
- 脳腸相関(お腹と脳のつながり)
気持ちの安定に関わるホルモンの生成には、腸内環境が深く関わっています。善玉菌が食物繊維などを分解して生み出す成分が、自律神経のリズムを支えています。 - 体内の微細な負担(慢性的な炎症)を抑える
理由のないだるさや気分の落ち込みの背景には、体内の細かな疲労や炎症が関係していることがあります。野菜のポリフェノールや良質な脂質は、それらを穏やかに落ち着かせる手助けをします。 - 血糖値の安定
急激に血糖値を上下させる食生活は、自律神経を刺激し、イライラや気分の浮き沈みを招きやすくなります。
食材の「名前」だけでなく「育ち方・作られ方」にも目を向けてみる

この研究では、地中海食をベースにした以下のような食品が推奨されました。
- 未精製の穀物(玄米や雑穀など)
- 旬の野菜や果物
- 豆類や青魚
- オリーブオイルなどの良質な油脂
- 味噌などの伝統的な発酵食品
ここで少し立ち止まって考えてみたいことがあります。
ニュースや一般的な情報では「野菜を摂りましょう」「オリーブオイルが身体に良い」という品目の名前だけが切り取られがちです。しかし、同じ「油」や「野菜」であっても、どのような土壌で育ち、どんな過程を経て手元に届いたのかによって、含まれるものや身体への届き方は異なります。
- どのような環境で育てられた作物なのか
- 油はどのような方法で搾られ、加工されたものか
- 原材料表示のラベルを見たときに、自然な工程で作られているか
食はダイレクトに身体と心をつくる材料になるからこそ、「何という食材か」に加えて、「どのように作られてきたものなのか」という背景(履歴)にも少し意識を向けてみると、買い物の視点が一段と深まります。
できるところから、少しずつ手放してみる
何か特別な健康法を急に始める必要はありません。まずは日々の生活の中で、身体に負担をかけやすいものを「少し減らしてみる」ことからはじめるのがおすすめです。
- 原材料が極端に多く並んでいる加工食品を、1つ手作りに変えてみる
- 清涼飲料水やお菓子を、お茶や自然なナッツに変えてみる
- 外食や揚げ物が続いた翌日は、具だくさんのお味噌汁とご飯でリセットする
「良いものを足す」ことと同じくらい、「余分なものを減らして内側を休ませる」ことも、心を軽やかに保つための大切な工夫です。
食べたものが、明日の心をつくっていく
心が沈んでいるときは、視野が狭くなり、自分でも気づかないうちに暗い思考へと落ち込んでしまうものです。
しかしその原因は心の問題だけでなく、日々の食事の乱れによって、脳や身体が本来の働きを保てなくなっていた、という場合も多くあります。
私たちが食べたものは、血液になり、細胞になり、日々の思考や感情を支える土台そのものになります。
余分な負担を身体から取り除き、どのように作られたかが分かる確かな食材で内側を満たしていくこと。それは単に不調を防ぐだけでなく、心身の巡りを整え、本来の活力を取り戻すことにつながります。
年齢を重ねても健やかで、穏やかに前を向いて歩んでいけるように。
今日の食卓に並ぶものの「生まれた場所や作られ方」に少し思いを馳せながら、心地よい選択をひとつずつ重ねていきましょう。
全ては若返りの為に。
参考文献:Jacka FN, et al. “A randomised controlled trial of dietary improvement for adults with major depression (the ‘SMILES’ trial).” BMC Medicine. 2017;15:23.
